本稿は、わが国の保育制度への市場原理導入の効果について厚生分析を行なった。具体的には、供給量規制及び価格規制と割当によって特徴付けられる現行の保育制度の非効率性を計測した上で、規制改革会議が主張している①直接契約・直接補助方式の導入、②「保育に欠ける」要件の見直しの効果を、余剰分析及び公平性の分析を行って、定量的に評価した。その結果、得られた主な結論は以下の通りである。① 現状の認可保育所には、必ずしも保育需要の高い人々(WTPが高い人々)が割当られていないという意味で大きな非効率が発生している。このため、消費者余剰は、投入されている公費負担のわずか1/5程度に過ぎず、費用対効果の面から問題である。② 規制改革会議の主張する市場原理導入による改革を行なうことにより、保育料収入は4千億円強の増収となり、保育所間の競争によって運営費の効率化が図られるため、公費負担は最大で1兆4千億円余りの削減が可能である。③ この財政縮減分を、直接補助(保育所運営費と保育料の差額を利用者に補助)の財源に用いることにより、保育所の供給量(入所児童数)を最大で400万人程度増加させることが出来る。これは、現在の認可保育所入所者数の約3倍の供給量を意味しており、現在の待機児童問題はもちろん、逃げ水的に発生する潜在的待機児童の問題も、追加財源無しで全て解決することができる。④ 改革により現在の保育所入所者の中には、新たな保育料の下で利用できない(利用しない)人々が発生することになる。例えば、これらの人々を補償する意味で、現在と同じ低い保育料で保育所に全員入所できるように供給量を増加させても、その分にかかる公費負担は8千億円程度であり、改革による財政縮減分で十分に対応可能である。また、このとき、ジニ係数で計測される保育制度の再分配効果は、現状の保育制度の下の状況とほぼ変わらない水準であり、適切な再分配を考慮することによって市場原理導入の下でも格差が拡大しないようにすることが出来る。現在、政府は「新待機児童ゼロ作戦」として10年かけて保育所入所者を100万人増加させるという目標を発表したところであるが、その財源については全く見通しが立っていない状況である。しかしながら、規制改革会議が主張する保育への市場原理導入は、追加財源を全く確保することなく、供給を大幅に増加できるアイディアなのである。直ちに、市場原理導入による改革を実行すべきである。
Extent: | application/pdf |
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Series: | |
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Type of publication: | Book / Working Paper
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Language: | English |
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Notes: | Number 373 23 pages long |
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Source: | |
Persistent link: https://www.econbiz.de/10005018263