無担保貸出の導入が企業の資金調達とパフォーマンスに与える効果の検証
本稿では、中小企業金融公庫(2008年10月以降は日本政策金融公庫中小企業事業本部)によって2008年8月に本格的に導入された無担保貸出が、企業の資金調達とパフォーマンスに及ぼす影響を検証する。無担保貸出の導入は、有担保貸出のみを原則認めていた公庫が、リレーションシップバンキングの推進を目的として講じた大きな制度変更であり、実務的にもその効果の程度が注目される。同時にこれは、有担保と無担保の2つの貸出を提供することによって、メカニズムデザインによるスクリーニングが実際に生じるかを検証する分析としても捉えることができ、学術的にも重要な研究対象である。分析結果は以下の通りである。第1に無担保貸出を利用する企業では、有担保貸出利用企業に比して、有形固定資産の保有比率が低いだけでなく、信用リスクが高く公庫との取引関係がない場合が多い。公庫は無担保貸出の導入により、担保資産を十分に持っていない新たな企業群に対する資金供給を行っている。第2に、事前の属性をコントロールした上でも、無担保貸出を利用する企業では、有担保貸出利用企業に比して、事後的にパフォーマンスが悪化する傾向にある。特に、公庫と新規に取引して非対称情報の程度が著しい企業ほど、無担保貸出による事後的なパフォーマンス悪化の程度が大きい。これらの事象は、リスクの高い企業がデフォルト時の損失を小さくするために無担保貸出を選択しているという仮説や、無担保貸出を選ぶ企業では担保権行使の可能性を通じた借り手への規律付けが機能しにくくなっているという仮説と整合的である。
Extent: | application/pdf |
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Series: | |
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Type of publication: | Book / Working Paper
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Notes: | Number 18 30 pages long |
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