老人保健制度と外来受診 : 組合健康保険レセプトデータによるcount data分析
本稿は,組合健康保険の診療報酬明細書(レセプトデータ)に基づく個票データを使用することにより,老人保健を間近に控えた個人が,制度適用後に受診行動を変化させるのかを分析する。レセプトデータを用いた分析に対して,しばしば指摘される重要な問題点は,レセプトは医療機関が保険者に対して医療費の請求を行ったものであるので,そのまま使用すると受診日数が0の個人を排除してしまい,sample selection biasを生じるというものである。本稿はこの点に鑑みて,近年医療経済学で標準的な分析手法となったcount dataを用いて分析を行う。なおかつ消費者主権的な受診行動と,医師が患者の受診を決定するというprincipal agent仮説を比較しつつ(Deb and Trivedi (1997, 2002)),老人保健移行の効果を検証する。主要な結論は以下のとおりである。(1)記述統計の結果,老人保健適用1年(半年)前後の加入者あたりの医療費は2,442.5(918.8)点上昇,診療日数は2.919(0.687)日増加する。このとき自己負担は17,617.1(9,743.5)円下落する。(2)受診日数を被説明変数にして,count dataで分析を行ったところ,老健移行前後の受診行動は,principal agent仮説よりもむしろ消費者主権的なものとなった。ただし,これには価格が重要な役割を果たす。(3)老健の限界効果は,1年(半年)間で11.870(1.173)日となり,この制度の適用を受けることで,患者の受診日数が増加することが示唆された。この論文から導かれる政策的含意とは,老人医療費をコントロールするには,自己負担率などを引き上げることにより,需要面(受診日数)も抑制する必要性があることである。
Extent: | application/pdf |
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Series: | |
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Type of publication: | Book / Working Paper
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Language: | English |
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Notes: | 本稿は,文部科学省科学研究費補助金特定領域研究「世代間利害調整プロジェクト」における研究成果の一部である. Number 145 17 pages long |
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