海外現地法人の持ち株比率とパフォーマンス−−タイの日系食品企業の企業データを使った分析−−
本論文は、日本の企業の海外現地法人のパフォーマンスについて、株式保有者の国籍の影響の定量的な分析を行った。具体的には、日本企業がタイに設立した食品関連の現地法人に注目し、現地法人の日本側およびタイ側の株式保有比率が現地法人のパフォーマンスに違いを与えるのかどうかについて分析した。2010年の時点でタイにある日系の食品関連現地法人として74社を同定し、それらの企業の最近3年分のミクロレベルの財務・株主情報を入手して定量的な分析を行った。パフォーマンスに関連する指標には、売上高、粗利益、合計資産、販売・管理費、総運営費、総収入、銀行預貯金およびそれらの成長率を用いた。分析では、日本側の株式シェアとそれらパフォーマンス、タイ側の株式シェアをそれらパフォーマンスの散布図を作成した。さらに、サンプルを日本企業が50%以上の株式を保有している現地法人とそうでないものに分割し、それぞれの売上高分布をカーネル密度推定して、その分布を比較した。同様の比較を、タイ企業が50%以上の株式を保有している現地法人とそうでないもの、日本企業が50%以上の株式を保有している現地法人とタイ企業が50%以上の株式を保有している現地法人、それぞれについても行った。散布図の分析からは、売上高とその成長率、粗利益とその成長率、合計資産とその成長率、総収入とその成長率、および販売・管理費(成長率は除く)について、日本側の株式シェアと負の相関、タイ側の株式シェアと正の相関が見られた。他方、総運営費とその成長率、銀行預貯金とその成長率、販売・管理費成長率については逆に、日本側の株式シェアと正の相関、タイ側の株式シェアと負の相関が見られた。しかし、銀行預貯金を除くすべてのパフォーマンス指標について、観察された相関傾向は統計的に有意ではない。カーネル密度分布の分析からは、売上高、粗利益、総運営費、銀行預貯金の水準について、日本企業が50%以上の株式を保有している現地法人の方が、タイ企業が50%以上の株式を保有している現地法人よりも高い傾向にあることがわかった。これらについて平均値を比較すると統計的に有意な違いがあることが確認できた。以上より、日本企業が50%以上の株式を保有する「外資企業」の方が規模が大きいといえるものの、株式保有の国籍は、基本的に現地法人のパフォーマンスに統計的に有意な影響を与えてはいないと結論できる。株式保有シェアによって現地法人のパフォーマンスは異ならないということは、日本の企業が現地法人を設立する際に、自分の企業の現状に則す形で現地の合弁相手を最適に選択し、かつ最適な株式保有シェアを決めていることを示唆する。
Year of publication: |
2012-09
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Authors: | 中島, 賢太郎 ; 牧岡, 亮 ; 櫻井, 武司 |
Institutions: | Institute of Economic Research, Hitotsubashi University |
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