社会経済的階層による健康格差と老人保健制度の効果 : 全国高齢者パネルを用いた試行的研究
本稿では、高齢者のなかで、社会経済的階層による医療サービスへのアクセス、健康度に違いが生じているかどうかを検証し、続いて、老人保健制度移行の効果が社会経済的特性の異なるグループ間でどう異なるかの分析を行った。男性と女性では、階層による医療サービス受療・健康度への影響に違いがあり、男性では、所得階層による医療サービスの受療に違いは観察されなかったが、主観的健康度・他人と比較し た健康度で計った健康状態では、所得が高い方、教育年数が長い方が健康である確率が高かった。慢性疾患をコントロールすると、所得が高い方が入院確率が高くなっていた。所得が外来受診回数に影響を与えていなかった反面、居住地域は外来受診の頻度に大きく影響しており、男性の場合、医療機関への物理的なアクセスが外来医療サービス受療の決定要因の一つと考えられる。女性では、所得・教育年数による医療サービス受療・健康度の差はほとんど観察されなかったが、結婚している女性は、死別・未婚・離婚の女性に比べてより多く外来受診する傾向があることが明らかになった。Natural experiment の手法を用いて、階層間で老人保健制度の効果の違いを分析した結果、男性では、国民健康保険加入者のグループが、その他のグループと比較して、老人保健制度移行後により入院確率が高くなっていることが明らかになった。老人保健制度移行前後の差益のために需要に歪みが生じる可能性があり、差益の大きいグループにその傾向が高まることが示唆された。また、低所得層はその他の層と比較して、老人保健制度に移行することで健康状態がより改善するという知見を得た。女性については、老人保健制度移行後に所得の高い層が、より外来受診頻度を高めており、医療の現物支給」の所得再分配効果に疑問を投げかけた。老人保健制 度が、男性の所得階層間の健康状態の格差を縮小していたことについて、その経路を解明するとともに、新しく導入される高齢者医療制度が階層間の格差縮小にもたらす効果を検証することが今後の重要な課題となるだろう。
Extent: | application/pdf |
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Series: | |
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Type of publication: | Book / Working Paper
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Language: | Japanese |
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Notes: | Number 308 [28] p. |
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