本稿では、各職業に必要とされるスキルを点数化し、スキル面での労働市場の二極化の長期的推移を見た。具体的には、Autor, Levy and Murnane (2003)による、定型的か非定型的か、知的作業か身体的作業かなどの観点から分類した「非定型分析」「非定型相互」「定型認識」「定型手仕事」「非定型手仕事」の5業務の1960年から2005年にかけての動向を見た。その結果、1960年以降、非定型業務(相互、手仕事、分析)のシェアがほぼ一貫して増加し、定型業務(認識、手仕事)のシェアがほぼ一貫して減少するなど、高スキル、低スキル両方での非定型業務の拡大がみられることがわかった。またこれらの5業務の変化の程度は緩やかである。これは、この間増加した職種と減少した職種で要求される業務構成にさほど差が認められず、業務構成の変化が同方向(非定型相互、非定型手仕事の増加、定型認識、定型手仕事の減少)で両者で相殺されたことによる。さらに、日本で観察された1960年代から一貫して単調に定型業務が減少し、非定型業務が増加した傾向は、合衆国の分析結果と異なることもわかった。特に身体的作業を主とする手仕事業務シェアの長期的動向について、両国の差異は顕著である。この差異の一端は1960年時点での両国の産業・職種構成の違い(特に農林漁業職やサービス職)にもある程度求められるが、同一職種で必要なスキルに対する両国の評価の違いも多少関係している。合衆国の業務評価体系を日本のものと置き換えて5業務構成を再計算しても、1960年以降一貫して非定型業務のシェア拡大が進んだことに変わりはなかったものの、顕著に増加した職種・減少した職種において両国の評価の差が若干観察された。