マイクロシミュレーションを用いた給付つき税額控除に関する研究。わが国における家計所得は二極化が進展し低所得者層が出現しているが、課税最低限を下回る所得階層の増加は、所得税における従来型の控除や累進税率による所得再分配を困難化させ、負の所得税の必要性が指摘されている。本研究では、厚生労働省「平成16年国民生活基礎調査」の個票を用いたマイクロシミュレーション・モデルを構築することにより、日本に給付つき税額控除を導入した場合の実証分析を行った。シミュレーションにおいては、(i)アメリカの勤労税額控除(EITC, Earned Income Tax Credit)、(ii)イギリスの勤労税額控除及び児童税項控除(WTC, Working Tax Credit; CTC, Child Tax Credit)、(iii)カナダの付加価値税額控除(GSTC, Goods and Service Tax Credit)という3つの海外事例を導入した場合の試算を実施した。いずれの制度も収入の多寡に応じて税額控除(還付)を行うわが国には存在しない制度である。わが国の雇用政策は就労支援を重視する方向にあるが、これと整合性を確保するためには、勤労所得や就業時間を条件とする給付つき税額控除の仕組みが望ましい。子育て支援の充実を目指して児童手当の拡大を図る際には、所得に応じた逓減部分を導入することにより、滑らかな消失構造を構築する方法がある。消費税における逆進性の緩和を狙う給付つき税額控除は、他の政策目的に比べると財源規模が小さい。